青年は"いもや"をめざす

晴れ。24.5℃/19.1℃/51%

来週のMtgアポやら、タイアップ記事のレイアウト稿のチェックやら、いろいろと仕事が入ってくる。タイアップ記事については監査役から「いいねぇ~」とお褒めの言葉をいただいたりして、ちょっとうれしかったりする。

さて、今日のランチ!は、神保町の都市伝説"いもや(とんかつ)"。なぜ都市伝説かというと、あれだけ有名で、明大、日大生でこの店の世話になったことのないヤツはいないだろうと言う位有名なのに、肝心のとんかつの写真はネット上で数えるほどしかない。そりゃそうだ。あの雰囲気の中で写真を撮るなんて、"伊東美咲"を一人10万円のランチに誘い出し、飯を食いながら「2ショット撮らせて」と頼むよりも緊張するよ(w。
写真撮ったら追い出されたとかいうネット情報もあったが、比較的白山通り店で撮られた写真(緊張のあまりものによっては盗撮まがい)が多いような気がした。そこでお店の迷惑にならないように、ランチピークを外した13時過ぎを狙い、現地に到着したのだった。

暖簾をくぐると、男性3人とおばちゃん1人がカウンターの中で動き回っていた。カウンター席はもちろん人でいっぱい。窓際に並べられた待ち席の端っこに座った。静寂に支配された異空間。時折白山通りを行き交う大型車のノイズが混じるだけだ。
いきなり目つきの鋭い揚げ職人さんが注文を取り始めた。一人ずつ「とんかつ」「ヒレ」「とんかつ」「とんかつ」と小声で申告する……まるで点呼だ(笑)。
僕 の隣に20代後半のリーマンがいて、こいつが携帯メールを打つのに夢中になって点呼に気づかない。「お客さん……」揚げ職人さんが小声で呼びかけるがこい つは気づかない。職人さんの目つきが一層鋭くなり「オレの店から出て行け!」って怒鳴り出すんじゃないかと、店内の空気が凍り付いた。
次の瞬間、職人さんは僕に視線を飛ばしてきたので「とんかつお願いします」と申告。隣の男もようやく気づいたようだ。睨み付けながら「とんかつ?」と注文を取る職人さんに「ヒレ」と言える度胸が彼にはなかったようだ(苦笑)。

店内は静かだ。
男たちが背中を丸めて、皿に覆い被さっている。
肉が油の中を泳ぐ音、「ごちそうさま」と金を払う声、シンクで皿を洗う音以外はほとんど無音である。都会の中の真空。なんでこんなに緊張が走っているんだよ(汗。
席 が空くたびにベルトコンベア式に客が充填される。カップルで行っても基本別々の席。私語は厳禁。こんな雰囲気の中で写真を撮ってやろうというんだから、揚 げ職人さんの前だったら、とても僕には無理だ。絶対無理。携帯をいじっていたリーマンは、まんまと揚げ職人さんのど真ん前に座らされた。懲罰を見ているよ うだ(w
次は僕の番だ。職人さんの前は避けたい。モソモソ食事を続けている背中に向かって「おっさん、早くどけや」と心の中で毒付いたせいか、初老の男が立ち退いた。そこが僕の席。奥から2つ目。シンクの前だった。目の前はおばちゃん。

お茶を出してもらい、店内をキョロキョロする。
「……うれしそうね」ぼそっとおばちゃんが口を開いた。
そんな風に見えていたのかな?飲食店のスタッフから好印象をもぎ取ることは大切。
ニカッとおばちゃんに微笑みかける。Smile ¥0

先にどんぶり飯としじみ汁が出てくる。写真を撮りやすいように配置して、あらかじめがっこ漬けをご飯の上に散らしておく。
そ して僕のとんかつが揚がった。3つの皿をそれぞれ揚げ職人さんが配る。ありがたく両手で受け取る。カウンターの下でケータイカメラを起動する。店内は針を 落としても響き渡るような静寂。ここで「カシャーン」とシャッター音がしたらどうなるか?職人さんの怒号。凍り付く店内の空気。「あり得ない」「度胸ある なぁ」というお客の視線を集めながら、僕はカウンターからたたき落とされるのか?それとも睨み付けられながらカツをかっこんで逃げ出すのか?

そのとき奇蹟が起こった。
店の扉が開いて同僚としゃべりながらリーマンが3人入ってきた。
揚げ職人さんは、とんかつに包丁を入れるのに集中していた。
おばちゃんはシンクに視線を落とし、ガチャガチャと皿を洗い始めた。
こ うして「カシャーン」というシャッター音は、偶然発生したノイズにかき消されたのだった。イメージがminiSDカードへ書き込まれる時間がもどかしかった。1枚だけの貴重な写真だから、手ぶれなく撮影できたことを確認できて、あらためて緊張で手が震えているのに気づいた。だって箸に力が入らないんだも の。

こちらが"いもや とんかつ定食"だ。
価格は驚きの¥700(税込み)
13:00過ぎまではロースカツのとんかつ定食のみ。


ラードできつね色に揚がったカツは、衣がサクサクとした食感で、肉は素朴な味がした。神保町B級グルメの神々しさを感じる。なにも特別なものじゃない。オーソドックス……ただ量が半端じゃないだけだ。気取った箸使いは無用。ひたすら格闘である。
たっ ぷり添えられたキャベツにもソースをたっぷりかけて、無言でいただく。胃袋を押し広げてゆく肉の質量は圧倒的だ。もともとここは神保町の若い食欲を満たす ために営業している店なのだ。30代リーマン(しかもカロリーコントロールして健康志向)が受け止めるにはもてあます勢いがあった。

「お茶のお代わりは?」( ・∀・)つ■
カウンターの向こうからおばちゃんが声をかけてくれた。
「まだ、だいじょぶ」
厚意に感謝しながらそそくさと店をあとにしたのだった。

はぁ。ドキドキしたぜ。

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