台北4泊目

9月3日
おかげさまで晴れ。
今日はホテルの移動があります。(ただいま7:00)

僕は以前から"自分はホテル住まいが好き"と語ってきた。実際豪華で快適な設備とサービスを味わうことは好きだと言い切れる。扉一つでパブリックとプライベートを切り替えられる世界。自分の性に合っていると……。
ただ、今回は「ホテル住まい」ということについていろいろと思いを巡らした。そしてわかりかけてきたことがある。ちょうどチェックアウト3時間前を控えてそのタイミングが近づいているからなのだろうと思う。いまのうちに書き留めておこう。

自分が好きと語っているホテル住まいの瞬間って、実は次の二つなのだ。

1.朝食を終えて部屋に戻る。荷造りも終わっていて、あとは出発を待つまでなんとなくテレビを眺めている時間。
2. 忘れ物がないか確認も終わって、テレビも消した。荷物を下げて部屋を出る。必ず振り返ることにしている。そこには空っぽの空間と、窓から差し込んでくる陽光と、空調の風きり音だけがある。もうここに帰ってくることはないんだろうなという惜別感と、次の場所へ向かう淡い期待と不安が心を満たしている……。

いままでこれを「好きな瞬間」として認識していたけれど、これが深層心理のなにを表しているのか考えようとしなかった。というか、考えないようにしていたと思う。
でもせっかくの機会だから、この際暴いてみようと思う。つらいけど。

1と2を具体的に説明すると。
-時間は朝。8:00~9:00時台
-快適な部屋。清潔で広いベッド。テレビと応接セットとビジネスデスクがある。
-広くて、大きな窓からは陽光が差し込んでいる。あるいは外の光の方が明るすぎて部屋の中が暗く見えるときすらある(ヴェネッツイアのホテルを思い出す)。
-食事は終わって、おなかいっぱい。とてもおいしかった。
-テレビで流れている番組は二つ。一つはニュースと天気予報。もう一つはアニメ。だいたい古い時代に作られたディズニーが流れている。オールドファッションのミッキーマウスかドナルドダック。たまにトムとジェリー。
-ホテルの部屋はそんなに汚く使っていなくて、ベッドのシーツも汚くない程度にまとめてある。
-荷造りはすんでいて、カバンは1つか2つにまとめられている。
-出発まではあと1時間とか、それくらい……。
-惜別感と淡い期待に満たされた自分の心

ってここまで書けば、もうわかったも同然じゃないか(苦笑)
・ホテルの部屋は快適な空間だけど、生活感のない場所を象徴している。
・生活感がないから、そこには家族とか家庭とかはない。
・おいしい食事の後ということは、衣食住は満たされているということ。
・テレビは外部からの情報を意味するとともに受け身の自分。
応接セットは誰かと語っていた、あるいは語り合いたい、語り合いを受け入れる用意があるという気持ち。
ビジネスデスクは仕事を象徴している。
・ニュースと天気予報か、ディズニーが流れているテレビ。ニュースと天気予報は、次のアクションへの準備を整えているということ、あるいは未来への不安の象徴。
ディズニーは過去(あるいは子供時代)へのノスタルジアを象徴。
-荷造りが済んでいるということは、出発の準備はできていること。
-出発まで1時間くらいということは、あと少しでこの場所を出て行くタイミングが近づいているということ。出て行く瞬間を待っているということ。

-そしてカバンを下げて後ろを振り返る。移動の時間は迫っている。いままでいた部屋への惜別感を受け入れるとともに、次の世界へ向かう淡い不安と期待感に心は満たされている。

なんだよー。
書いててすげー恥ずかしくなった。
モラトリアムは終わった。気持ちは次の世界に行きたがってる。
そういうことじゃないか。(笑)

その先には生活感のある空間が待っているのか、それともまた別のホテルの部屋が待っているのか。それを決めるのはたぶん僕自身なのだろう。

なんか今回の旅行は"オルフェウス神話"みたいになってきた(笑)。

さぁ、とりあえずシェラトンから出発しよう。


で、ただいま"グランド・フォルモサ・リージェント"の1433から。
なかなか豪華だが、改装してから多少時間がたっているのかな?重厚というよりは少々古くさいような気がする。地下がDFSで「どちらにお泊まりですか」と尋ねられて「リージェント」と答えるのは多少気持ちがいいもんだ。

シェラトンを出て、リージェントにアーリーチェックイン。もちろん部屋は空いていないので、荷物を預けて部屋の準備ができ次第、荷物をあげておくように依頼する。
そのあとの予定はめちゃくちゃだった(笑)。

まずMRT中山駅から乗車し、迪化街(てきかがい)を目指す。古い台北市街があり、かつ強力な縁結びの神様がいるというのだ。行かずにはいられまい(笑)。
こ こで"地球の歩き方 台湾05~06"に誤記があったので指摘しておく。P.88にある「雙連駅下車、民政西路を西へ徒歩約5分」という記述はあやまりだ。おおよそ10~15分位かかった。また目指す目的地の"霞海城隍廟"は民政西路と迪化街一段が交わる交差点を南に曲がって1分くらいのところにある。 これはガイドに記載されていないので、北に曲がってしまうと目的地に行き着けないので、不親切な記述だと思う。それから小さな廟なので、龍山寺みたいなものを期待していると拍子抜けするので注意。ここのお線香は50元というぼったくりだが、めげずに祈りは捧げるべき(笑)。参拝してから最速3日で良縁を手にした人がいたと新聞で話題になったありがたい廟である。

そのあと雙連駅まで戻り、ずーっと気になっていた淡水まで足を伸ばすことにし た。海である。東シナ海を直接見たかった、ということで行く。淡水駅から15元払って、終点までバスに乗ればそこに目的地はある。ただしサンフランシスコ のフィッシャマンズワーフみたいなものを期待してはいけないので、念のため(笑)。そこには土で濁った河口と、長い長い桟橋がある。そんだけ。途中で"紅毛城"がある。ただいま修復中らしいのでスキップ。淡水は有名なデートスポットらしいので人出はすごかった。

淡水からリージェントに戻ってきたのが3時過ぎ。とりあえずチェックインして、コンシェルジェにエアラインのリコンファームを依頼し、その足でDFSをのぞく。明日正式に婚約する妹にスワロフスキーのアクセサリー(きれいになって嫁に行けと気持ちを込めて)を、自分にはGUCIIの時計("神話発見記念に")を、両親には竹でできた 箸(末永く仲良くという気持ちを込めて)を、祖母には茶器と月餅のセット(家族と会話の多い日々を送れますようにと気持ちを込めて)を用意した。その他の 土産は空港で調達予定。
お買いあげ品を部屋にぶち込んで、あらためてMRTに乗り"子林観光夜市"を冷やかしに。とにかくすごい人混みと混沌。そしてすごい匂い。油煙と生ものの腐臭とどぶの匂い。こんな環境でよくメシが食えるものだ。慣れって怖いね。

で、ホテルに戻ってきて、この文章を書いている。
リー ジェントの部屋も14階の高層階だ。団体客なんかは低層階に泊められているようだ。エレベータで乗り合わせたおっさんやねーちゃんたちを尻目に14階のボタンを押すと、周囲の「なにおぅ~」という視線が痛い。いいじゃん。この部屋は一応室料が$NT9,000で、サービス料を加算すると約35,000円 /1泊となるが、自分が支払うのはたぶん\25,000位のはず。最近思うのは、チェックインは早いほうがお得なような気がする。お部屋のアップグレード にありつけられる。3時過ぎのチェックインの時は、だいたいろくでもない部屋が多かったような気がする。


今回の旅行は"オルフェウス神話"と いうキーワードが与えられて、その意義が見えてきたような気がする。実際、今年の夏は、ある人と知り合って、かなり仲良くなったとは思う。ところがその関係は行き止まりで、そのまんまじゃどうにもなりようがなかった。僕はその人のことが好きでしたけど、まぁ仕方ない。その人は僕のことを好きになってくれた が、それよりももっと好きな人がいたということで、ある程度結果は見えていた。残念だけど。その人はいろいろと問題も抱えていて、会話を続けていくうちに それの解決の手助けをすることはできたように思う。彼は自らを雨月物語の"青頭巾"になぞらえていたが、どうやら僕の役割はその物語に登場し、幽鬼を成仏させる導師だったようだ。(苦笑)
だがまぁ、この結果が僕の中に一時的でも空虚な状態を生み出したことは事実で、それが日常のいろいろとシンクロして、さらに僕を凹ませる結果になったのかもしれない。
ただ9月3日の朝をもって、この旅行の意味が"オルフェウス神話"なのではないかと考えるようになって、浮上のきっかけをつかみかけたような気がする。彼の存在が神話の入り口なのか、それとも神話の出口なのかはわからない。"行き先"は見つけられたが、それは黄泉の世界から戻ってきた結果なのか、それともこ れから黄泉の世界に下るのかは解らない(苦笑)。どっちなんだろう???微妙に悩ましいのだ。

ちなみに"オルフェウス神話"は、"ムーラン・ルージュ!"を見て以来、たびたび僕の周りで出てくるキーワードになっている。その理由はわからないが。映画の中では主人公ユアン・マクレガーはモンマルトル のボロボロの宿(orアパート)で泣きながらタイプライターに向かっている。彼の脇にはジェイドカラーのアブサンがあった。
それに引き替え、台北でもトップクラスのホテルで寝泊まりしていて「こんな快適な"オルフェウス神話"もねーだろうに」と一人ごちるのだ(苦笑)。

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